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クッキーの廃止により原点回帰が進み、質の高いメディアの価値が高まる——Index Exchange香川晴代氏に聞く

クッキーの廃止により原点回帰が進み、質の高いメディアの価値が高まる——Index Exchange香川晴代氏に聞くクッキーの廃止により原点回帰が進み、質の高いメディアの価値が高まる——Index Exchange香川晴代氏に聞く
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企業のマーケティング活動において、デジタル広告の重要性が増しています。一方で、ブラウザーの利用履歴を複数の企業で共有する「サード・パーティークッキー(Cookie)」への規制が強化されるなど、新たな動きも起こっています。こうした中、デジタル広告のメディアや広告主にはどのような取り組みが求められているのでしょうか。世界最大級の独立系広告エクスチェンジ(入札取引)企業であるIndex Exchangeの日本担当マネージングディレクターである香川晴代氏にお聞きしました。

「サードパーティークッキー」廃止の背景と影響

——Index Exchange様の会社概要、サービスなどについてご紹介ください。

香川 Index Exchange(インデックス・エクスチェンジ)はカナダのトロントに本社のあるアド(広告)テクノロジー企業です。創業以来、20年余りになります。当社が開発したデジタル広告のアドエクスチェンジは「東洋経済オンライン」のような媒体社やメディア事業者と、広告主やエージェンシー(広告代理店)など、売り手と買い手を結び付ける入札取引市場です。
 アドエクスチェンジにおいては、いかにスピーディーに効率的に広告枠の入札を行えるかが重要です。Index Exchangeは、自前でデータセンターを有して広告配信を行っているほか、「SSP(Supply Side Platform)」と呼ばれる、媒体側の収益を最大化させるためのプラットフォームの開発でも長年の実績があります。広告テクノロジーの進化を加速させるというミッションの実現に向けて事業に取り組んでいます。

——ブラウザーの利用履歴を複数の企業をまたいで共有する「サードパーティークッキー」が廃止されようとしています。どのような背景があるのでしょうか。

香川 2017年には米アップルがウェブブラウザーの「Safari(サファリ)」でのサード・パーティークッキーの制限を開始し、20年には初期設定で全面禁止としました。モジラ財団の「Firefox(ファイアフォックス)」も初期設定でサード・パーティークッキーの利用ができなくなっています。
 最近になって注目されているのは、米グーグルの動向です。世界でトップシェアを握るブラウザーの「Chrome(クローム)」で、24年には利用者の1%について機能を無効にし、25年から段階的に全廃するとしています。 
 これらの背景には、世界各地で個人情報保護規制の規制が進んでいることがあります。欧州連合(EU)は一般データ保護規則(GDPR)を18年に施行しました。米国や日本でも個人情報保護規制が進んでいます。

 

——サード・パーティークッキーが廃止されるとどのような影響がありますか。

香川 例えばある通販サイトで商品を「カート」に入れると、翌日になってもカートに残っています。さらに、そのサイトとは別のサイトでも、関連商品のバナー広告が表示されることもあります。これはサード・パーティークッキーにより、サイトをまたいで自分の関心事などの個人データが利用されているためです。
 サード・パーティークッキーがなくなると、誰が何に関心を持っているのか、そこに対してどのような広告を打ってサイトの再訪を促すのかといった、いわゆる「リターゲティング」あるいは「リマーケティング」と呼ばれるような手法が難しくなります。オンラインマーケティングではかなり大きな変化が到来するといえます。
 

サード・パーティークッキー廃止によりメディアの質が問われるように

——サード・パーティークッキー廃止後の代替策としてはどのようなものがありますか。

香川 グーグルが導入しようとしているのが「プライバシーサンドボックス」と呼ばれる仕組みで、この一連のAPI(Application Programming Interface)には、ユーザーのブラウザーの閲覧履歴などから興味がある分野のデータをブラウザー内に保存し、個人を特定できない形で関心に応じた広告を配信するものがあります。
「文脈ターゲティング(Contextual Targeting)」は、媒体のコンテンツなどに合わせて広告を掲載する手法です。
 このほか、「データクリーンルーム」は、大手プラットフォーマーが保有するデータと広告主のデータを統合的に分析するものです。ただし、個人情報は除かれます。
「東洋経済オンライン」のように、会員ユーザーのメールアドレスなどを取得し、特定できるのであれば、「確定ID」と呼ばれるようなIDを利用することができるでしょう。それができなければ、IPアドレスやデバイス、ブラウザーなどを分析して、ユーザーを推測する、「推定ID」を利用することになるでしょう。
 ブラウザーによるサード・パーティークッキー廃止が進む中で、当社にも媒体社、広告代理店、広告主からのご相談が増えています。いずれもまだ代替策を模索中といったところです。当社としても、サード・パーティークッキー廃止後のメディアや広告主の対応を積極的に支援したいと考え、取り組みを進めているところです。

——デジタル広告のあり方そのものが大きく変化することになりそうです。

香川 一口で言えば、原点回帰が進むと見ています。とくに日本市場においてはその流れが加速するでしょう。
 これまで日本では、多くの企業がパフォーマンス重視でした。どれだけクリックされたか、どれだけコンバージョン(成約)につながったかに焦点を絞る傾向がありました。そして、これらを追求するあまり、自社の広告がどのようなメディアに掲載されたのかといったメディアの質を重視してこなかったのです。このため、個人ユーザーが作ったメディアであっても広告出稿をいとわないという傾向がありました。
 最近になって問題も起きています。生成AI(人工知能)を使って作成されたフェイク(虚偽)画像や記事を掲載するメディアが急増しています。閲覧数に応じた広告収入を得るのが目的です。米国などでは、このような質の悪いメディアに広告を掲載すると、消費者や株主などから「こんなメディアに御社の広告が出ているが大丈夫か」とクレームが来るそうです。ブランドイメージを損なうことになりかねないからです。
 日本ではまだそこまで至っていませんが、企業のコンプライアンスやガバナンスのあり方が問われるようになっており、今後は、ステークホルダーも関心を持つようになるでしょう。広告主も意識を変えざるをえなくなると思われます。


 

PMPにおけるプログラマティック広告取引が普及する

——サード・パーティークッキー廃止をきっかけに日本のデジタル広告市場で原点回帰が進むとのことですが、欧米ではそのような潮流があるのでしょうか。

香川 米国などで普及が進んでいるのが、「プログラマティック(Programmatic)」広告取引と呼ばれる手法です。先ほどお話しした、広告を供給する側(メディア)のSSPというプラットフォームと、「DSP(Demand Side Platform)」と呼ばれる、広告を購入する側(広告主)のプラットフォームを利用して入札取引を行います。さらにそこでは、PMP(Private Market Place)と呼ばれる、メディア(売り手)と広告主(買い手)が限定される市場で取引が行われることが増えています。
 メディアを限定しないと、質の悪い媒体も在庫に入ってくるため、広告主にとっては出稿の判断が難しくなります。逆にメディアにとっては在庫が増えるため単価が安くなりがちです。
 欧米でプログラマティック取引におけるPMPが増加している背景には、前述したように欧米企業はブランド価値が毀損することを大きなリスクと考えているためです。特定の商品やサービスのプロモーションのための予算に加え、ブランディングのための予算を確保しており、自社のブランドに適したメディアを指名買いするような形態が一般的です。質の悪いメディアに出稿することに比べれば広告単価は上がりますが、それ以上の効果が見込めるということでしょう。逆にメディア側にとっても、希少性があり価値が高い広告在庫であれば売価を上げることも可能になり、収益向上に貢献します。

——プログラマティック取引におけるPMPが日本で普及することで、広告主にとっても、さまざまなメリットが期待できそうです。

香川 これまでのように玉石混交でどこのメディアに出稿しているのかわからないというのではなく、メディアを限定することで、ROI(投下資本利益率)も明確になります。広告主が目指すKPI(重要業績評価指標)を設定し、それに向かってメディアを統合的にプランニングして購入し最適化を図ることができるようになります。さらに、広告主側でデータをためることができるので、データを基にした継続的なプロモーション活動なども容易になるでしょう。
 欧米の企業に比べ、日本企業はマーケティングと経営との距離が遠いように思います。とくにデジタル広告は一部の若手社員などに任せきりになっているという経営者も少なくないようです。もっと経営に近いところでマーケティングを行う重要さに気づいてほしいですね。デジタルマーケティングは経営者自身のテーマだと考えて人材採用・育成なども含めて取り組んでいただきたいと願っています。

編集後記

 香川様にお話をお伺いして、改めてデジタル広告の問題の根深さを思い知りました。マーケティングの専門家が育たない日本企業の組織の問題。デジタル広告が自社のブランドを毀損している可能性があることを経営者が気づいていないという問題。また、生成AIの登場で今後ますます加速すると思われる広告詐欺の問題。
問題が山積する中で、サード・パーティークッキー廃止を奇貨として、関係者が一丸となって業界の「健全化」に努めなくては、デジタル広告はユーザーの信用を完全に失ってしまう。その岐路に今あると実感しました。
 「東洋経済オンライン」は、広告主様に信頼される安心・安全な媒体を目指し、アド・セキュリティー・サービス「GeoEdge」導入など、さまざまなアドベリフィケーション(DSPなどの広告配信が適切かの検証)に取り組んでいます。複数の観点からのブランドセーフティー調査の結果、国内平均を上回る高いパフォーマンスの広告枠であることが証明されています。
「東洋経済オンライン」でPMP広告をご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。
「もっとPMPについて知りたい」という方は、過去の記事もぜひご覧ください。

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編集担当・尾登