2024年11月22日(金)、東洋経済新報社ビジネスプロモーション局は、企業の統合報告書の制作担当者やCSR・サスティナビリティー担当者に向けた「『伝わる統合報告書』セミナー 効率よく制作するための5つのポイント」を開催した。
司会進行は東洋経済新報社ビジネスプロモーション局企画推進部の尾登雄平が担当。登壇者は、東洋経済新報社データ事業局データベース第三部 『CSR企業総覧』編集長・村山颯志郎(さしろう)、同編集部・伊東優、東洋経済新報社ビジネスプロモーション局ブランドスタジオ・カスタム事業部担当部長・新井泰嗣の3名で、統合報告書の読まれ方や現在のトレンド、統合報告書制作に当たってのポイントなどを語った。
誰が何の目的で統合報告書を読んでいるのか
セミナーの冒頭では、『CSR企業総覧』の編集者という立場から、村山と伊東から統合報告書の読まれ方やトレンドについて解説があった。
統合報告書を発行している企業の中には、主に投資家に読まれることを想定して作るケースがある。これに対し村山は、「個人投資家で統合報告書を読み込んでいる層は少ないのではないか。投資家の目的は金銭的リターンを得ることで、閲覧するのは財務データが主流になる」と話す。その一方で「最近はインパクト投資(※1)の推進の流れもあるため、将来的には統合報告書に記載されているような内容がさらに評価される可能性はある」と付け加えた。
伊東は「専門家以外で、とくに熱心に統合報告書を読む可能性があるのは、企業の株主、取引先、顧客、社員、金融機関など」と語り、投資家以外にもさまざまなステークホルダーがいることを示唆した。また「投資家にとっては、いかに企業価値につながるかのストーリーが重要で、そこから有報(有価証券報告書)を通じた法定開示だけではわからない独自の情報を得ようとする」とも述べ、数字のみではわからない情報を求める投資家もいると語った。
※1 金銭的リターンと社会的・環境的にポジティブな影響を与えることを目的とする投資
統合報告書を発行している企業の中には、主に投資家に読まれることを想定して作るケースがある。これに対し村山は、「個人投資家で統合報告書を読み込んでいる層は少ないのではないか。投資家の目的は金銭的リターンを得ることで、閲覧するのは財務データが主流になる」と話す。その一方で「最近はインパクト投資(※1)の推進の流れもあるため、将来的には統合報告書に記載されているような内容がさらに評価される可能性はある」と付け加えた。
伊東は「専門家以外で、とくに熱心に統合報告書を読む可能性があるのは、企業の株主、取引先、顧客、社員、金融機関など」と語り、投資家以外にもさまざまなステークホルダーがいることを示唆した。また「投資家にとっては、いかに企業価値につながるかのストーリーが重要で、そこから有報(有価証券報告書)を通じた法定開示だけではわからない独自の情報を得ようとする」とも述べ、数字のみではわからない情報を求める投資家もいると語った。
※1 金銭的リターンと社会的・環境的にポジティブな影響を与えることを目的とする投資
統合報告書とサスティナビリティー情報開示のトレンド
統合報告書の最近のトレンドについては、村山と伊東から複数のポイントが挙げられた。
まず日本で統合報告書を発行している企業は増加傾向にあり、東洋経済新報社の最新の『CSR企業総覧(ESG編)2025年版』によると、調査回答企業のうち54.1%が統合報告書を発行している状況にある。また、昨今では、環境や社会などの外部要因が企業のビジネスモデルや財務状況に与える影響を評価し、企業価値を判断するような考え方が一般的になってきたという事実がある。
その文脈の中で、村山はインパクト投資に注目が集まっていると述べた。また、有価証券報告書によるサスティナビリティー情報開示の義務化にも言及し、第三者保証を伴ったサスティナビリティー情報が、投資判断における存在感を増していくのではとも述べた。
そのほか、統合報告書はこれまで100~200ページといった膨大な情報を掲載する傾向にあったが、企業内のマテリアリティ(※2)の整理や、有価証券報告書でのサスティナビリティー情報の拡充もあり、しっかり読みこなせる程度にページ数が絞られる傾向にあるとも語った。
最後に、生成AIの利用についても言及があった。村山は生成AIへの対応として、実際に企業の統合報告書のデータを読み込ませ、投資データなどとして活用している場合もあるとして、「記述とデータの物理的な配置や記述・用語の一貫性、Web上での取得までの経路の短さなどデータドリブンな工夫も必要」と語った。
※2 企業における重要課題
まず日本で統合報告書を発行している企業は増加傾向にあり、東洋経済新報社の最新の『CSR企業総覧(ESG編)2025年版』によると、調査回答企業のうち54.1%が統合報告書を発行している状況にある。また、昨今では、環境や社会などの外部要因が企業のビジネスモデルや財務状況に与える影響を評価し、企業価値を判断するような考え方が一般的になってきたという事実がある。
その文脈の中で、村山はインパクト投資に注目が集まっていると述べた。また、有価証券報告書によるサスティナビリティー情報開示の義務化にも言及し、第三者保証を伴ったサスティナビリティー情報が、投資判断における存在感を増していくのではとも述べた。
そのほか、統合報告書はこれまで100~200ページといった膨大な情報を掲載する傾向にあったが、企業内のマテリアリティ(※2)の整理や、有価証券報告書でのサスティナビリティー情報の拡充もあり、しっかり読みこなせる程度にページ数が絞られる傾向にあるとも語った。
最後に、生成AIの利用についても言及があった。村山は生成AIへの対応として、実際に企業の統合報告書のデータを読み込ませ、投資データなどとして活用している場合もあるとして、「記述とデータの物理的な配置や記述・用語の一貫性、Web上での取得までの経路の短さなどデータドリブンな工夫も必要」と語った。
※2 企業における重要課題
統合報告書制作で押さえるべき「5つのポイント」
次のセッションでは、統合報告書制作の実務に携わる立場から、新井が「伝わる統合報告書の作り方」のプレゼンテーションを行った。
新井は、統合報告書は任意開示であり、企業は出しても出さなくてもいいが、発行する企業は年々増加していると話し、その背景として「投資家、取引先、従業員、地域の人々など多様なステークホルダーに自社の持続的成長の可能性を理解してもらうこと」の重要性が増しているためであると述べた。
それに加えて統合報告書を制作することの副次的な効果もあるとした。1つ目が、数年という時間をかけて開示を充実させて開示をしていくことで「自社の現在地を把握できる」こと。2つ目が、制作に携わる社員と統合報告書を読んだ社員が、自社の持続的な成長可能性を考えるようになり「自社の未来を語ることができる」ことであるとした。
次に新井は、「いい統合報告書とはどういったものか」について整理をし、そのうえで「伝わる統合報告書」の5つのポイントをまとめた。
前提として、まず統合報告書の目的は「企業の持続的な価値創造」を、ターゲット読者に伝えることであるとした。ターゲット読者とは「投資家、取引先、従業員、地域の人々」となる。そしてそれらのステークホルダーとの関係性を向上し、ステークホルダーが所属するコミュニティの発展に寄与することが、統合報告書の目的となる。
それらを達成するための統合報告書制作のポイントは以下の5つだ。
1.自社ビジネスモデルの独自性を踏まえた企業価値向上につながるストーリーライン
2.サプライヤー、地域、社員など、多様なステークホルダーを巻き込む開示
3.定点観測(過去→現在→未来)と情報の定量化
4.単なる取り組み紹介で終わらせないアウトカムの表現
5.統合報告書の内容を届ける工夫・コーポレートサイトなどと連動
そのうえで、新井はこれらのポイントの具体的な事例を挙げた。
1つ目の「自社ビジネスモデルの独自性を踏まえた企業価値向上につながるストーリーライン」の事例として挙げられたのは、伊藤忠商事の統合報告書だ。
「トップメッセージはCEO自身の言葉で語られている印象を与え、熱意が伝わってくる内容となっている。業界全体での立ち位置や非財務情報など多岐にわたって語りながら、それぞれが大きなストーリーとしてつながり、読者に『企業価値の向上』を納得させる力がある」
2つ目の「サプライヤー、地域、社員など、多様なステークホルダーを巻き込む開示」の事例として挙げられたのは、オムロンの統合報告書だ。
「同社の統合報告書では『共創パートナーのコメント』というブロックで協力会社の担当者が登場し、社会課題解決の価値創造事例を紹介している。また、自社の社員やグループ企業の社員など、さまざまな立場の方のコメントが掲載されている。多くのステークホルダーの声を入れることで、自社目線だけではない、多くの視点を盛り込むことができる」
3つ目の「定点観測(過去→現在→未来)と情報の定量化」の事例として挙げられたのは、日清紡ホールディングスの統合報告書だ。
「事業ポートフォリオで過去→現在→未来の変化が1ページに集約され、過去の事業からどのようにポートフォリオが変化してきたかと、その売り上げの推移がわかりやすく示されている。また、その事業を今後どのように変えていくのかという成長曲線が未来にどうつながっていくのかまでがビジュアルで示されている」
4つ目の「単なる取り組み紹介で終わらせないアウトカムの表現」の事例として挙げられたのは、クボタの統合報告書だ。
「人的資本のページに、マネージャークラスによる『人的資本の向上』をテーマとした座談会、その後のページには『組織づくりのワークショップ』に参加した社員の声が掲載され何を得たのかが紹介されている。そして『社員が何を得たのか、何が改善できたのか』という定性的な情報と、『参加部門の7割のエンゲージメントスコアが向上した』という定量的な情報がアウトカムとして表現されている」
5つ目の「統合報告書の内容を届ける工夫・コーポレートサイトなどと連動」の事例として挙げられたのは、オムロンと花王のコンテンツだ。
オムロンの事例では、統合報告書に掲載されている対談コンテンツを、動画にもして自社サイトで公開している。花王の事例では、サステナブル関連の取り組みをオフィシャルYouTubeチャンネルでも紹介している。統合報告書は作って終わりではなく、アセットの表現の仕方を変えて接触するユーザーを増やす、コンテンツの理解度を深めてもらう試みが重要になる。
新井は、統合報告書は任意開示であり、企業は出しても出さなくてもいいが、発行する企業は年々増加していると話し、その背景として「投資家、取引先、従業員、地域の人々など多様なステークホルダーに自社の持続的成長の可能性を理解してもらうこと」の重要性が増しているためであると述べた。
それに加えて統合報告書を制作することの副次的な効果もあるとした。1つ目が、数年という時間をかけて開示を充実させて開示をしていくことで「自社の現在地を把握できる」こと。2つ目が、制作に携わる社員と統合報告書を読んだ社員が、自社の持続的な成長可能性を考えるようになり「自社の未来を語ることができる」ことであるとした。
次に新井は、「いい統合報告書とはどういったものか」について整理をし、そのうえで「伝わる統合報告書」の5つのポイントをまとめた。
前提として、まず統合報告書の目的は「企業の持続的な価値創造」を、ターゲット読者に伝えることであるとした。ターゲット読者とは「投資家、取引先、従業員、地域の人々」となる。そしてそれらのステークホルダーとの関係性を向上し、ステークホルダーが所属するコミュニティの発展に寄与することが、統合報告書の目的となる。
それらを達成するための統合報告書制作のポイントは以下の5つだ。
1.自社ビジネスモデルの独自性を踏まえた企業価値向上につながるストーリーライン
2.サプライヤー、地域、社員など、多様なステークホルダーを巻き込む開示
3.定点観測(過去→現在→未来)と情報の定量化
4.単なる取り組み紹介で終わらせないアウトカムの表現
5.統合報告書の内容を届ける工夫・コーポレートサイトなどと連動
そのうえで、新井はこれらのポイントの具体的な事例を挙げた。
1つ目の「自社ビジネスモデルの独自性を踏まえた企業価値向上につながるストーリーライン」の事例として挙げられたのは、伊藤忠商事の統合報告書だ。
「トップメッセージはCEO自身の言葉で語られている印象を与え、熱意が伝わってくる内容となっている。業界全体での立ち位置や非財務情報など多岐にわたって語りながら、それぞれが大きなストーリーとしてつながり、読者に『企業価値の向上』を納得させる力がある」
2つ目の「サプライヤー、地域、社員など、多様なステークホルダーを巻き込む開示」の事例として挙げられたのは、オムロンの統合報告書だ。
「同社の統合報告書では『共創パートナーのコメント』というブロックで協力会社の担当者が登場し、社会課題解決の価値創造事例を紹介している。また、自社の社員やグループ企業の社員など、さまざまな立場の方のコメントが掲載されている。多くのステークホルダーの声を入れることで、自社目線だけではない、多くの視点を盛り込むことができる」
3つ目の「定点観測(過去→現在→未来)と情報の定量化」の事例として挙げられたのは、日清紡ホールディングスの統合報告書だ。
「事業ポートフォリオで過去→現在→未来の変化が1ページに集約され、過去の事業からどのようにポートフォリオが変化してきたかと、その売り上げの推移がわかりやすく示されている。また、その事業を今後どのように変えていくのかという成長曲線が未来にどうつながっていくのかまでがビジュアルで示されている」
4つ目の「単なる取り組み紹介で終わらせないアウトカムの表現」の事例として挙げられたのは、クボタの統合報告書だ。
「人的資本のページに、マネージャークラスによる『人的資本の向上』をテーマとした座談会、その後のページには『組織づくりのワークショップ』に参加した社員の声が掲載され何を得たのかが紹介されている。そして『社員が何を得たのか、何が改善できたのか』という定性的な情報と、『参加部門の7割のエンゲージメントスコアが向上した』という定量的な情報がアウトカムとして表現されている」
5つ目の「統合報告書の内容を届ける工夫・コーポレートサイトなどと連動」の事例として挙げられたのは、オムロンと花王のコンテンツだ。
オムロンの事例では、統合報告書に掲載されている対談コンテンツを、動画にもして自社サイトで公開している。花王の事例では、サステナブル関連の取り組みをオフィシャルYouTubeチャンネルでも紹介している。統合報告書は作って終わりではなく、アセットの表現の仕方を変えて接触するユーザーを増やす、コンテンツの理解度を深めてもらう試みが重要になる。
統合報告書制作「3つのテクニック」
「5つのポイント」に続いて新井は、統合報告書制作の「3つのテクニック」を挙げた。
1つ目が「第三者保証」だ。
「自社だけではなく客観的な視点が増えることで読者への信頼感を与えることにつながる。例えば、GHG排出量算出の第三者機関の保証を入れるといった対策などがある」。
2つ目が「編集方針で見どころを明記する」ことだ。
「数十ページに及ぶ開示の隅々まで目を通すことは読み手にとっても大変な作業なので、冒頭に編集方針を入れ、読んでほしいところを明示することは、とくに見てほしい部分のアピールにもつながるうえ、読み手に対する気遣いにもなり望ましい」
3つ目が「統合報告書のフィードバックを受け入れる」ことだ。
「例えばアンケート機能などをコーポレートサイトのサスティナビリティーページに設けるなどして、実際に読んだ方からのフィードバックを受け、次年度の改善につなげることが重要だ」
1つ目が「第三者保証」だ。
「自社だけではなく客観的な視点が増えることで読者への信頼感を与えることにつながる。例えば、GHG排出量算出の第三者機関の保証を入れるといった対策などがある」。
2つ目が「編集方針で見どころを明記する」ことだ。
「数十ページに及ぶ開示の隅々まで目を通すことは読み手にとっても大変な作業なので、冒頭に編集方針を入れ、読んでほしいところを明示することは、とくに見てほしい部分のアピールにもつながるうえ、読み手に対する気遣いにもなり望ましい」
3つ目が「統合報告書のフィードバックを受け入れる」ことだ。
「例えばアンケート機能などをコーポレートサイトのサスティナビリティーページに設けるなどして、実際に読んだ方からのフィードバックを受け、次年度の改善につなげることが重要だ」
東洋経済の統合報告書制作の強み
新井のプレゼンテーションのパートでは最後に、東洋経済新報社の統合報告書制作サービスの紹介があった。
「東洋経済の制作チームでは、お客様に寄り添った統合報告書の支援サービスを提供している。130年、経済の現場で取材をしてコンテンツを作ってきた取材・執筆力を武器に、実力のあるスタッフが読み手に伝わるナラティブなストーリーづくりに寄与できる。また、『週刊東洋経済』「東洋経済オンライン」というメディアを持っている点もわれわれの強みだ。制作した統合報告書をコンテンツ化し、われわれの読者に届ける形に加工し発信できる。さらに、東洋経済新報社しかできない強みとして、『CSR企業総覧』の平均値・中央値のデータの提供が可能だ。例えば女性管理職ランキングのデータを活用し、自社と比べる表を作ることで、非財務データに優位性を提示することができる」
最後に司会進行の尾登から、法人のお客様向けの広告・セミナー・カスタム出版のソリューションについての案内と、2025年の東洋経済新報社創立130周年記念に合わせた記念特別の広告メニューのリリースについての紹介があり、セミナーは終了となった。
「東洋経済の制作チームでは、お客様に寄り添った統合報告書の支援サービスを提供している。130年、経済の現場で取材をしてコンテンツを作ってきた取材・執筆力を武器に、実力のあるスタッフが読み手に伝わるナラティブなストーリーづくりに寄与できる。また、『週刊東洋経済』「東洋経済オンライン」というメディアを持っている点もわれわれの強みだ。制作した統合報告書をコンテンツ化し、われわれの読者に届ける形に加工し発信できる。さらに、東洋経済新報社しかできない強みとして、『CSR企業総覧』の平均値・中央値のデータの提供が可能だ。例えば女性管理職ランキングのデータを活用し、自社と比べる表を作ることで、非財務データに優位性を提示することができる」
最後に司会進行の尾登から、法人のお客様向けの広告・セミナー・カスタム出版のソリューションについての案内と、2025年の東洋経済新報社創立130周年記念に合わせた記念特別の広告メニューのリリースについての紹介があり、セミナーは終了となった。