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マーケティングの歴史②:マーケティング基礎理論の構築

マーケティングの歴史②:マーケティング基礎理論の構築マーケティングの歴史②:マーケティング基礎理論の構築
こんにちは。東洋経済ブランドスタジオの経済・ビジネスコラム。「マーケティングの歴史の第2回です。初回は経済学の一分野であったマーケティングが独立した存在となった経緯を解説しました。
今回は、1920年代以降に現在に連なるマーケティングの基礎理論がつくられていくまでを解説していきます。

米国「黄金の20年代」の繁栄

第1次世界大戦後、それまで世界経済・金融の中心だった英国は、長引く戦争で不況に陥り、多額の戦費により債務国となりました。代わりに世界経済・金融の中心に躍り出たのが米国です。
米国は戦場から遠く離れていたこともあり、軍需物資の生産と輸出で経済的に繁栄しました。また、戦時中には英国をはじめ連合国の借款(戦時公債)を供与したため、戦後に世界最大の債権国となりました。
好調な経済、旺盛な内需を背景に、米国では耐久消費財や加工食品の「大量生産・大量消費」のライフスタイルが普及しました。自家用車の保有台数も急増し、人口が都市部から郊外へ移動し、新たな生活様式が生まれました。
この時代に技術革新も進み、家庭用の家電製品の普及が進みました。例えば、冷蔵庫、掃除機、アイロン、洗濯機など。スーパーマーケットでは調理済み食品やパック詰め食品が人気になりました。1920年には女性に参政権が与えられ、家電や調理済み食品で家事の負担を軽くした女性が積極的に社会進出を果たしていきます。
この時代のことを米国では「黄金の20年代」あるいは「狂乱の20年代」と呼びます。そんな時代にマーケティングは基礎的な理論が構築されました。

マーケティング基礎理論の誕生

1920年以降にマーケティングの基礎理論を構築したと評価されるのは、イリノイ大学教授であったP.D.コンバースです。
1921年、彼は『マーケティングの方法と原理(Marketing Methods and Policies)』を出版し、1930年には前作を基にして『マーケティング要綱(Elements of Marketing)』を出版しました。その後、半世紀にわたって改訂を重ねつつ、理論的なテキストとして整備されていきました。この書籍は大学教育現場でのマーケティングのテキストとして広く利用され、後にはMBA(経営学終修士)取得のための教材の1つとなりました。
この時期には、研究者の間で流通・マーケティングの機能・内容をどう分類するかの議論がありました。コンバースは、
①販売 ②蒐集(購買) ③分散 ④標準化 ⑤格付け ⑥包装 ⑦輸送 ⑧貯蔵 ⑨金融 ⑩危険負担
という分類でした。この分類は他の研究者よりも整理されたものだったため、ポピュラーなものとなりました。

マーケティングは科学か否か

コンバースは1945年7月に「マーケティング科学の発展―試論的外観―(The Development of the Science of Marketing - An Exploratory Survey)」という論文を『Journal of Marketing』に発表しました。ここでコンバースは、過去50年間のマーケティング研究を概観したうえで、マーケティングは経済学、心理学、経営学、経済史、会計学に依拠してきたものであり、論文は他の古い諸学問、概念・技法とデータ、組織、定期刊行物、著作および報告書によって科学ないし技法の概観を行なっているとしました。
この論文がきっかけでその後、「結局、マーケティングは科学(理論)なのか否か」という「科学論争」が展開されました。
1950年以降に、企業の発展に伴いマーケティングも企業特有の手法が開発されていき、マーケティングは経営の一機能とされ、いわゆる「マネジリアル・マーケティング」へと発展してくことになります。そんな中でマーケティングは、他の科学分野と同じように再現性があるのか? 個別の経営者や企業に固有のもので、再現性がないのではないか?という疑問が呈されたわけです。
この「マーケティングは科学か否か」は息長く議論がされていきました。コンバース論文はその議論の嚆矢(こうし)となりました。

商品分類論の開拓

もう一人重要な人物が、商品分類論を開拓したM.T.コープランドです。
コープランドは商品を「消費財」と「生産財」とに分類し、さらに消費財を「消費者の愛顧動機と購買習慣」の観点から、「最寄品(もよりひん)」「買回品(かいまわりひん)」「専門品(せんもんひん)」の3つに大別しました。
「最寄品」とは、「容易に行ける店舗で習慣的に購買される商品」のこと。せっけん、雑誌、たばこ、歯磨き粉などです。
「買回品」とは、「消費者が購買時に価格、品質、およびスタイルを比較することを望む商品」のこと。服、靴、陶磁器、日用雑貨、玩具などがあります。
「専門品」とは、「価格以外に何らかの魅力を持っており、その商品が販売されている店舗に行くための特別な購買努力を消費者にさせる商品」のこと。紳士服、高級家具、自動車などがあります。
ただしこの分類にも例外があり、例えば服や靴のように「買回品」と「専門品」に重複する製品が存在します。結局この分類も、消費者の購買頻度、購買される場所、ブランドに対する心理によって区分が変わるものであるという点は注意が必要です。
この分類は非常に有名になり、企業の商品販売経路の選定戦略に利用されました。100年以上経った現在でも多くのマーケティング研究者に利用されている分類区分です。

まとめ

1920年以降の米国の経済発展と消費文化の登場に伴い、より効率よく適した市場と売場に商品を卸し最大限の売り上げを上げられる仕組みを研究するマーケティングは、重要性を増していきました。そんな中でマーケティングの専門家により、体系的な理論や商品分類が議論され提起されていきました。
ところが、マーケティングというもの自体が「科学ではないのではないか」「再現性がないのではないか」という議論が生じてきたのもこの時代のことです。
次回は1950年代以降の現代につながるマーケティング論の発展期について解説していきたいと思います。


参考文献

『マーケティング論の史的展開と新潮流』 同文舘出版 2024年2月20日初版発行 関根孝
「アメリカ・マーケティング学説史考―P・D・コンヴァース・基礎理論の先達―」 小原博 経営経理研究第112号 2018年3月 pp.21-36
「ブランド・マーケティング体系(Ⅶ)―「商品分類」から「ブランド分類」へ―」 梶原勝美 専修大学社会科学年報第44号