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マーケティングの歴史③:オルダーソン、ハンセン、マッカーシーのマーケティング論

マーケティングの歴史③:オルダーソン、ハンセン、マッカーシーのマーケティング論マーケティングの歴史③:オルダーソン、ハンセン、マッカーシーのマーケティング論
 こんにちは。東洋経済ブランドスタジオの経済・ビジネスコラム「マーケティングの歴史」の第3回です。
 前回は1920年代以降に現在に連なるマーケティングの基礎理論がつくられていくまでを解説しました。今回は、50年代以降にマーケティング論が本格的に発展していく中で確立した、マーケティング論について詳しく解説していきます。

W.オルダーソンの「マーケティング管理論」

 マーケティング論は、マーケティング論を初めて確立したA.W.ショー以降、経営視点で生産・販売を戦略的に管理していくべきという「マネジリアルマーケティング」を志向しながら発展してきました。しかしマーケティング管理研究を進めるに当たって、企業の個別ケースの研究が重視される傾向があり、理論研究がなおざりになってしまいました。「マーケティングは科学か否か」という議論がP.D.コンバースの論文をきっかけに始まったのはコラムの第2回で書いたとおりです。

50年代以降、その反省からマーケティング管理論の理論研究が進み、57年にW.オルダーソンがその集大成とされる研究を発表しました。
 オルダーソンは、「企業と家庭」の行動をシステム的に捉え、「組織された行動システム(Organized Behavior System)」という概念を基にしてマーケティング管理行動を整理しようとしました。

 オルダーソンの主張を整理します。
彼は、営利活動を行う企業が存続するためには、「組織された行動システム」の操作において、特定の環境内でインプットとアウトプットの関係を構成員がお互いに効率よく維持することが必要であるとしています。「組織された行動システム」の主体である企業は、問題を解決し目的を達成するため、計画的にシステムにおける諸行為を管理する必要があるとしました。
 インプットとは「マーケティング努力」、アウトプットとは「顧客の欲求充足」を指します。つまり、企業はマーケティング努力による環境適応行動(インプットとアウトプットの最適化)を効率よく実施することで顧客の欲求充足を果たす必要があり、それを果たすにはマーケティング管理者が主導することが必要で、その最適解を探すのが「マーケティング管理論」であるというわけです。

 当たり前の事柄をわざと難しく言っているように思えるかもしれません。しかし、マーケティング事象を特定企業の特殊事例と見なしてしまうと「ウチの会社には当てはまらない」などとして片付けられてしまう可能性があります。そうではなく、マーケティング論はどのケースにも当てはまる「一般性」を持たせて、科学的に考察する必要があるわけです。

D.M.ハンセンの「準備的機能」重視のマーケティング論

 次に取り上げる人物が、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のD.M.ハンセンです。
ハンセンはマーケティングを「市場の欲求を見い出したり、商品やサービスの仕様書を作成したりするとともに、それらに対する需要を喚起するプロセスである」と述べました。
ハーバード大学の経済学者J.K.ガルブレイスは、マーケティングを「これまで存在しなかった欲求を生じさせることであり、自律的に決定された欲求というこれまでの経済学的前提と相いれない」と主張しました。
ハンセンはこれを批判し、人間の欲求には、食欲や睡眠欲などの「基本的欲求」から、マーケティングによってつくり出される「人工的欲求」までさまざまな階層があるとし、現代は経済、社会、教育、文化などありとあらゆる側面から新たな欲求が生み出されるようになっているため、これらを適切に把握し、求められる消費パターンに適合しなくてはならないとしました。
そのために重要なものが、市場把握、製品開発、プロモーションで、これらを「準備的機能」と称します。ハンセンは、消費社会が高度に成長すると売り手市場から買い手市場に変化し、新たな価値を提案するマーケティングの重要性が高まると考え、「準備的機能」が効果的・効率的に実行されると、市場の売り手と買い手の取引の最適化が行われると考えました。
 ハンセンは、それまで流通や販売が研究の主軸だったマーケティング論に、「準備的機能」の重要性をもたらしたと評価されています。

J.マッカーシーの「マクロマーケティング」と「ミクロマーケティング」

 ミシガン州立大学やノートルダム大学で教授を務めたJ.マッカーシーは、「4P理論」の提唱者として非常に有名です。
 4P理論とは、彼が1960年に提唱したもので、「Product(製品)」「Price(価格)」「Promotion(プロモーション)」「Place(流通)」の頭文字を取ったもので、マーケティングはそれぞれの要素が相互補完する形で企画実行されなくてはならない、というものです。

 マッカーシーは、1971年に刊行された『Basic Marketing』の第4版において、マーケティング論を明確に「マクロ」と「ミクロ」に区分しました。
マクロマーケティングは「資源の利用が効率的で、すべての関係する団体に対するアウトプットの配分が公平なシステムを設計することに関係し、そのシステムは商品およびサービスの経済的フローを生産者から消費者に向かわせ、社会の目的を達成させるもの」であるとし、ミクロマーケティングは「顧客を満足させるために商品およびサービスの経済的フローを生産者から消費者あるいはユーザーに向かわせ、企業の目的を達成させる事業活動」であると定義されました。
 それまでマーケティングは個々の企業の事業活動の範囲として見なされてきました。企業からのミクロな視点しかなかったわけです。ところがマッカーシーは、社会というマクロな視点からマーケティングを捉え、社会全体のニーズを効果的・効率的に解決するための手段として考えようとしました。
 81年の第7版では、「マクロ」「ミクロ」ともに、より定義が明確されました。

マクロマーケティング
  • ・個々の組織の活動ではなく、どのような全体的システムが機能するかに焦点を置く
  • ・異質的な需要と供給をマッチングさせると同時に、社会目的を達成することが役割
  • ・すべての国家が同一の目的を持っていないので、計画経済や市場経済など、それぞれの社会目的により有効性と公平性が評価されなければならない

ミクロマーケティング
  • ・営利・非営利組織に適合する
  • ・販売や広告以上のもの。マーケティングの狙いは、販売を不要にすること
  • ・顧客欲求が起点となる
  • ・生産、会計、財務などの他の企業活動を方向づける意味を持っている

まとめ

 1950年代に入ると、現在のわれわれが考えるマーケティングに近い論考がいくつも登場していることがわかります。とくに、市場での需要と供給のバランスを効率化させ社会目的を達成するマクロマーケティングの考え方は重要です。マーケティングは企業が利潤を追求するだけではなく、社会課題を解決するためでもあるという考え方を広げる、有限な資源をサステイナブルに活用し需要を満たしていくというSDGs的な発想にも適応できます。
 次回はコトラーをはじめとした研究者による、マーケティング概念のさらなる拡張について解説していきます。


参考文献
「W.オルダーソンにおけるマーケティング管理論の性格」 樫原正勝 三田商学研究.Vol16,No.5(1973.12),p87-110
『マーケティング論の史的展開と新潮流』 関根孝 同文舘出版 2024年2月20日初版発行
「(続)現代のマーケティング概念」 関根孝 専修商学論集 114,2022-01-20,p.109-133