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    デジタル時代に求められる「広告」の本質と戦略

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内田和成氏×齋藤太郎氏が改めて問う
デジタル時代に求められる「広告」の本質と戦略

内田和成氏×齋藤太郎氏が改めて問う <br> デジタル時代に求められる「広告」の本質と戦略内田和成氏×齋藤太郎氏が改めて問う <br> デジタル時代に求められる「広告」の本質と戦略
  • イベントレポート

 

東洋経済新報社では、2022年11月、東洋経済オンラインリニューアル10周年を記念したプロモーションイベントをオンライン開催しました。デジタル時代に広告はどのように進化し、ブランディングやマーケティングにおいて、これからどんな戦略をとるべきなのか。クライアント各社の担当者が集い、報告しました。これに先立ち、基調対談として、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)前代表で元早稲田大学大学院商学研究科教授の内田和成氏と、コミュニケーション・デザイナー/クリエイティブディレクターでdof代表の齋藤太郎氏の2人が、デジタル時代の広告について大いに語り合ってくれました。

 

(プロフィール)
内田和成 氏 (前BCG日本代表/元早稲田大学大学院商学研究科 教授)
東京大学工学部卒業。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)。日本航空を経て、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)入社。2000年6月から04年12月までBCG日本代表。06年には「世界でもっとも有力なコンサルタントのトップ25人」(米コンサルティング・マガジン)に選出された。06年から22年3月まで早稲田大学教授。ビジネススクールで意思決定論、競争戦略論、リーダーシップ論を教えるほか、エグゼクティブ・プログラムでの講義や企業のリーダーシップ・トレーニングも行なう。『仮説思考』『論点思考』『右脳思考』『右脳思考を鍛える』『BCG 経営コンセプト 市場創造編』(東洋経済新報社)、『異業種競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『プロの知的生産術』(PHP研究所)、『ビジネススクール意思決定入門』(日経BP社)など著書多数。

齋藤太郎氏 (コミュニケーション・デザイナー/クリエイティブディレクター)
慶應義塾大学SFC卒。電通入社後、10年の勤務を経て、2005年に「文化と価値の創造」を生業とする会社dofを設立。企業スローガンは「なんとかする会社。」。ナショナルクライアントからスタートアップ企業まで、経営戦略、事業戦略、製品・サービス開発、マーケティング戦略立案、メディアプランニング、クリエイティブの最終アウトプットに至るまで、川上から川下まで「課題解決」を主眼とした提案を得意とする。サントリー「角ハイボール」のブランディングには立ち上げから携わり現在15年目を迎える。

インターネット広告に対する意識を変える時が来た

内田 世の中のあらゆるところにインターネットが浸透した今、私は広告の意味合いが大きく変わってきているように感じています。

齋藤 スマホが登場してから大きく変わったと感じています。昔はテレビや新聞で多くの人たちに同じものをお届けして、皆が学校や職場で話題にするというものでしたが、今はそうではなくなった。スマホの登場で、ビジネスのあり方や行動様式も変わってしまった。広告はその最たるものだと思います。

内田 今では“インターネット広告”もよく注目されていますが、その本質は販売促進やプロモーションであって、本来の意味での広告ではないのではないか。昔は広告と営業は別物でしたが、インターネット広告でやっていることは今、かなり営業に近いものだとみています。

齋藤 同感ですね。今は広告と販促の予算が一緒になっている場合も少なくありません。広告に対する捉え方は人によって異なりますが、投資効果を高めたいということになれば、やはり販促寄りになるでしょう。


内田 広告の販促的な意味合いが大きくなる中、企業も今までの方法論のままでは、間違った方向にいくことになります。広告に対する認識を変えていく必要があるでしょうね。

齋藤 広告をロジックで考えれば、今は販促寄りの人たちに利があるでしょう。CRM(Customer Relationship Management)のような話になれば、どうしても投資効果が問われることになる。ただ、広い範疇で広告を捉えるならば、やはり人々にどのように語りかけていくのか。そこが重要だと考えています。

多くの人の心に響くのは「たった1人に伝えるラブレター」

内田 記憶に残る広告、ストーリーを内在した広告、買いたい気にさせる広告など、広告をいくつかに分けて考えていかなければ、単純に「テレビCMだ、ネット広告だ」といった手法は時代遅れになると思います。これからは横並び的な発想ではなく、もっと新たな方法論が必要になってくるのではないでしょうか。

齋藤 知名度を単に上げたいというだけで広告を打つ場合は、大抵うまくいきません。やはりそこには企業のパーパスが必要です。そして、コアコンピタンスとは何かを突き詰めていかなければ、広告効果も期待できません。

内田 企業のイメージを伝えたい、とくに特定の人たちにメッセージを伝えたいとき、企業はどうすればいいでしょうか。

齋藤 あれもこれも伝えたいと欲張りになることがよくありますが、私はそんなとき「世の中のたった1人に伝えるとすれば、どんな人ですか?」という問いかけをするようにしています。そうやってメッセージを届ける人の解像度を高めていく。実際には、その人の周りには似たような人たちがたくさんいます。広告はラブレターと一緒で誰に届けるのか、どうやって届けるのかが大事になってくるのです。


内田 もし伝えたいことが専門的だったり、複雑だったりした場合、どんな方法でメッセージを届ければいいと思いますか。

齋藤 販促やプロモーションに近い形になる可能性が高くなってくるでしょう。ただ、そこで重要なのがクリエイティブの力です。どうやって自社のプロダクトを魅力的に感じてもらえるか。受け手が聞いてうれしいメッセージとは何かを考えることが大切です。例えば、SansanはテレビCMでビジネスパーソンが共感するようなストーリーラインを流すことでインパクトを出し、その先はネットを駆使しながら営業仕様で販促やプロモーションを行っていくという取り組みをしています。

内田 具体的に自分たちが届けたいターゲットセグメントに対し、どうメッセージを届ければいいんでしょうか。

齋藤 ターゲットがメディアと接している時間や条件によって、どのメディアを選ぶのかを判断することになります。例えば、雑誌の定期購読者は囲い込まれたお客様であり、ロイヤルティも高い。テレビ、新聞、雑誌、ネットとそれぞれメディアの特徴を鑑み、段階的に組み合わせていくことでメッセージを届けることが大事になってくるでしょうね。

内田 一方で、企業がサービスや価値観、文化、ライフスタイルなどを伝えたいとき、どうアプローチしていけばいいのでしょうか。

齋藤 ほとんどの企業は社会事業をやっていると考えています。その意味で、お客様に必要なものをつくっていて、それがなぜ必要なのか。そこを明確なメッセージとして届けていく。そうやって企業のファンを増やしていくことがベストでしょう。

宣伝と販促をトータルで考える「広告」のあり方

内田 これまでは大きな予算を持っている大企業が広告では有利でした。しかし、インターネットによってコミュニケーション手段が増えたことで、予算に制約のある中小、新興企業にもチャンスが広がっていると思いますが、どのように活用していけばいいのでしょうか。

齋藤 今は中小企業でもオウンドメディアやSNSで、いろんな人たちとつながりをつくることができます。自社が持つ魅力的なプロダクトを世の中にわかりやすい形で、見える化、ストーリー化できれば、大きな資金を投じなくてもメッセージを伝えられるでしょう。実際、化粧品や食料品などのスタートアップは、よく活用しているはずです。ただ、ネットの世界ではあらゆる広告が氾濫しています。どんな手法にせよ、結局は軸となる考えを持った企業が生き残っていくと思います。

内田 広告において販促やプロモーションの比重が高くなっていく中、これまでのように宣伝と販促を分けて考えるのではなく、トータルで考えることが企業にとって大事になってきますね。一方、自社のビジョンやパーパスを伝える際は、今まで以上に広告が重要になってくると思います。いずれにしても、どんな目的で、どのようにメッセージを届けるのか。そこを戦略として明確にしていくことが大切になってくるでしょう。


齋藤 インターネットの浸透によって、人の行動様式が変わっていく中、企業が提供するもの、広告やメッセージの届け方も変わっていかなければなりません。そこにどのように対処していくのか。他と同じようなことをやっていても、将来的にはAIに取って代わられるかもしれない。広告は人間が介在するからこそ、人間にしか考えられないことを発明してチャレンジしていく。それがこれから重要になっていくでしょう。