『マーケティングのすゝめ 21世紀のマーケティングとイノベーション』書評

『マーケティングのすゝめ 21世紀のマーケティングとイノベーション』書評

尾登 雄平

 こんにちは。東洋経済新報社ビジネスプロモーション局の尾登です。読書の秋ということで、夜が長くなって本をじっくり読むにはよい季節です。先日、私は『マーケティングのすゝめ 21世紀のマーケティングとイノベーション』(中公新書ラクレ)を手に取りました。こちらの本は初版が2016年10月で、若干古い本ではあるのですが、現在のコロナ禍で企業が考えるべきマーケティングについて予言しているような点があり、非常に興味深かったため、今回書評という形でご紹介しようと思います。

 

アメリカと日本の一流マーケターが執筆

 本書の著者は、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院教授で「近代マーケティングの父」と称されるフィリップ・コトラー氏と、元ネスレ日本社長の高岡浩三氏です。コトラー氏は世界の名だたる企業のマーケティングのコンサルティングを行い、代表的な著書である『マーケティング・マネジメント』は世界中のビジネススクールで教科書になっています。高岡氏は、法人用コーヒーマシンを無料で設置できる「ネスカフェ アンバサダー」の仕組みを立ち上げ、ネスレ日本の売り上げを大きく伸ばした方です。
 本書はコトラー氏と高岡氏の対談、コトラー氏執筆の章、そして高岡氏執筆の章で構成されています。プロローグのタイトルが「なぜ、21世紀のマーケティングが必要なのか」となっており、高岡氏は日本企業が停滞し新興国との競争に敗れている理由に「マーケティングとイノベーションに対する理解不足」を挙げており、多くのビジネスパーソンにマーケティングへの理解を促すために本書を執筆したとあります。

これからの日本に必要なマーケティングとは

 第1章のコトラー氏と高岡氏との対談の中で、現在の日本企業のマーケティングの課題が述べられています。それは「現在の日本企業のマーケティング部門の役割は、単に商品の宣伝をしているだけであり、商品開発や市場開拓に対する意思決定力がないため、顧客の購入意欲を高める思考ができてない」からであるとしています。
 実際に、日本の多くの企業の現場では「マーケティング」というと、製造の現場で作られた製品が、いかに見栄えや機能、価格面で優れた製品であるかを、広告チャネルやPRを活用して宣伝すること、というように捉えられているケースが多いです。本書ではまずその認識が間違いであると指摘します。
 コトラー氏は、日本企業はまず「チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)」のポストを設け、最高経営責任者(CEO)や最高財務責任者(CFO)などで構成される経営会議の場に参加させ、マーケティング視点から製品開発や市場開拓などの議論を行うべきであると提言しています。マーケティングとは、「顧客と顧客の問題を特定し、その問題を解決するための方法を考え、それを実行していく過程全般」を指して言う言葉であり、経営全般でマーケティングの視点がないと、日本企業が世界で勝つためのイノベーションやリノベーションは起こらない、と厳しい言葉を投げかけています。

 

イノベーションとリノベーション

 高岡氏執筆の章では、イノベーションとリノベーションがどう違うか、その定義が書かれています。

イノベーション
顧客が認識していない問題(Unconscious Problem)の解決から生まれる成果。

リノベーション
消費者調査で把握できる、顧客が認識している問題(Conscious Problem)の解決から生まれる成果。

例えば、箒(ほうき)とちり取りで行っていた掃除に対するイノベーションが「掃除機」です。誰しも箒(ほうき)とちり取りで十分だと思っていたところを、目に見えない需要を喚起して市場を席巻しました。この掃除機のリノベーションが、例えば「コードレス掃除機」や「サイクロン型掃除機」で、既存の掃除機の機能をより便利に改良しました。さらなるイノベーションが「ロボット掃除機」であり、手を使う掃除機で十分だと思っていた消費者に自動掃除という新たな需要を喚起しました。
 高岡氏が警鐘を鳴らすのは、日本企業は「モノづくり」という点にこだわりすぎて、デジタルを使った問題解決の思考ができずに、イノベーションが起こせてないという点です。その結果、モノづくりの発想から生じるリノベーションはあるものの、デジタルを使ってユーザーが意識をしていない課題を解決するビジネスモデルを構築するイノベーションを起こせないでいる、と指摘します。もはやモノではイノベーションを起こすのは難しい、というのです。

 

問題発見力をつけよ

 高岡氏は本書で「マーケティングは顧客の問題解決をするためのプロセス」であると強調して語っています。問題を発見するためには「物事を深く考えること」。移動中、食事中、会話中、入浴中、いつでもどこでも考えることが必要だ、と述べられています。ただし、日本人は受験勉強の弊害か、物事を深く考える習慣がない、としています。
 ネスレ日本では、社員に問題発見のためにつねに考える習慣をつけてもらおうと、年に1度「イノベーションアワード」という社内コンペを行っているそうです。そこで出たアイデアで優秀なものは事業として採用され、例えばスーパーの休憩スペースに「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」を置かせてもらい、高齢者のための休憩スペースにするなど、大きく成功したものも出てきています。

 

マーケティング3.0から4.0へ

 コトラー氏の文章には、現在あるべきマーケティングの姿として「マーケティング3.0」が定義されています。マーケティング3.0とは「企業がミッションやビジョンを持ち、社会の問題に対するソリューションを提供すること」であるとしています。社会の課題を解決することで、人々を感動させ、精神的価値や社会的価値を提供する存在になることです。
 今後はさらに進んだマーケティング4.0の時代になるとコトラー氏は語ります。マーケティング4.0は「人々の自己実現の欲求をかなえるための製品やサービスを提供すること」であるとしています。社会が成熟し、モノがあふれた市場では、社会的な帰属や愛の欲求といった「帰属欲」が生じます。帰属欲が満たされた後は、なりたいものになる、もっと特別な存在になる、といった自己実現欲求が高まっていきます。とくに先進国では増えており、企業はそういった欲求をかなえる製品やサービスを提供するべきだとしています。

 

まとめ

 本書は非常に平易な言葉で書かれ、とてもわかりやすい章立てになっています。マーケティングに携わる方も、これからやってみたいと思っている方も、これからのマーケティングのあり方や、そもそもマーケティングとは何か、を知るうえで、とてもよい学びになると思います。私自身も、考える習慣をつけ、世の中の課題について考えていかなくてはいけない、と思いました。

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