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第9回東洋経済CSRセミナー 大手製造業だけでない!企業に求められる環境活動

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2017年2月1日



 2016年9月29日に「第9回東洋経済CSRセミナー 大手製造業だけでない!企業に求められる環境活動」を開催した。参加者は40名だった。今回はその模様を報告する。

1. 講演
2. パネルディスカッション

■講演 「非製造業でも行える社会に役立つ環境取り組み

 COP21の「パリ協定」、SDGs(持続可能な開発目標)の登場など、企業に対してグローバルでの環境課題解決への取り組みがますます求められるようになってきました。これに応えてグローバル企業のなかには、積極的に長期目標を掲げて環境課題を解決しようとするケースも出始めています。

 ただ、多くの企業、特に非製造業にとっては、グローバルな課題は自社の現状にはあわず、ピンと来ていないCSR担当者の方も少なくないようです。東洋経済CSR調査の窓口にも「環境活動で何に取り組めばいいかよくわからない」というお悩みの声がよく寄せられます。

 確かに環境活動はグローバルな製造業の取り組みが範囲も広くインパクトが大きいことは事実です。しかし、そうした企業だけが取り組みを行っている状況では、本当に必要とされる環境に対する活動が日本全体に広がらない危険性もあります。

 そこで、今回は非製造業の環境の取り組みはどのようなことを行えば社会に役立つのか、どのような手順で行うべきなのかについて参加者と一緒に考えました。前半は、非製造業の企業でも行える「社会に役立つ取り組み」についてグリーン購入ネットワーク(GPN)事務局長の深津学治様にお話いただきました。

【講演者】
深津 学治(グリーン購入ネットワーク(GPN)事務局長)
=敬称略、役職は2016年9月29日時点

選び方(買い方)が環境貢献にとって重要に

 私ども「グリーン購入ネットワーク」は1996年からグリーン購入についてさまざまな活動を行ってきています。本日はそうした長年の経験も踏まえてお話させていただきたいと思います。
 ご存知のように日本はパリ協定で2030年までに2013年度比でCO226%の削減を国際社会で約束しています。
 しかし、日本の部門別の二酸化炭素排出量の推移を見ると、産業部門や運輸部門は減少している一方、家庭部門と業務その他部門が大きく増加しています。そのため国全体での大幅な減少は現実的にはかなり難しいのが現状です。

 このような中で私たちができることは、①使い方の工夫、②捨て方の工夫、③選び方(買い方)の工夫などがあげられます。これまでは①②の取り組みが中心でしたが、これからは③の「選び方(買い方)」を考えていくことが重要ではないかと思います。

 「選ぶ」「買う」は皆さんが日常的に行っていることです。携帯電話にするかスマートフォンにするか、白熱球からLEDにするなど、私たちは日常生活の中で常に「選択」を繰り返しています。

 たとえば、清涼飲料の容器はビンや缶からPETボトルを消費者が選ぶようになり、ごみの質が変わり、リサイクルシステムが変わるなどの変化が起きました。つまり、私たちは選ぶことで社会を変えていくことができるのです。消費者が行動を通じて環境を変えるために、まず「買う」から始めていただきたいと思います。このものの選び方を見直すことを「グリーン購入」と言います。

 消費の方法を変えることでCO2排出量は大きく変わります。たとえば、水道水、ミネラルウオーター(国産)、ミネラルウオーター(外国産)のCO2排出量を比べるとミネラルウオーター(国産)は水道水の1000倍の排出量となっています。これが国産でなく外国産になるとさらに増えます。

 外国産のミネラルウオーターを国産に変える、国産のミネラルウオーターから水道水に変える。このように購入者が水の選び方・買い方を変えることで環境保全に貢献できるのです。
 地球温暖化防止のためのエコライフの例としてシャワーの時間を短くすることもありますが、インパクトという面では、ミネラルウオーターを水道水に変える方がより大きな効果があります。

 国もパリ協定の採択を踏まえて「地球温暖化対策推進法」の一部を改正し、家庭・業務部門における低炭素な「製品」「サービス」「ライフスタイル」の賢い選択を進めようとしています。

 グリーン購入を進めるためには積極的な事業者を応援してあげることが大切です。その結果、環境配慮製品が幅広く普及し、環境問題の解決につながります。そして、環境と経済の両立、持続可能な経済社会が構築できるようになるのです。具体的には以下の4つの領域で進めることができます。

①オフィス内で使用する備品の購入
②部品・原材料の購入(グリーン調達)
③顧客にグリーン購入を促す
④事業者を選ぶ(①②に関連します)

 2001年にグリーン購入法という法律がスタートしましたが、自主的な取り組みが求められており、罰則規定はありません。しかし、施行前年(2000年度)と施行10年以上たった2014年度を比較するとグリーン購入法を満たした商品のシェアは大きく伸びています。消費者の購入選択の変化でこのように変わったのです。

 グリーン購入は、環境問題を入り口から解決することができ、大きなお金も必要ありません。ほとんど取り組みが行われていない状態からすでにさまざまな対応を行っている状態まで多くのレベルでそれぞれにあった対応ができます。もちろん製造業だけでなく非製造業でも行うことができます。

影響の大きい分野で取り組むことが重要

 グリーン購入の状況として地方公共団体の取り組み等を紹介します。「調達方針策定」は27%の自治体で行われています。「組織的取り組み率」は68.4%。8割以上グリーン購入している商品分野数は平均で約2.3分野でした。全分野は19分野なので決して多いとは言えません。

 続いて企業のグリーン購入取り組み状況を見ていきましょう。2013年度までは取り組み状況の数値は向上していましたが、2014年度は下がってしまいました。環境ビジネスの動向や環境マネジメントシステム(EMS)、環境報告書の作成状況なども横ばいです。
 東洋経済CSR調査でも同じような傾向があり、各企業ともまだまだ伸びしろがあるように感じます。

 しかし、この状況ではさまざまな環境問題を解決できないため、より進んだ取り組みが必要であることは間違いありません。その第一歩として行っていただきたいのが「グリーン購入」なのです。

 では、具体的にグリーン購入をどのように進めていけばいいのでしょうか。まず方針を立てる必要があります。方針がないと戦略的な取り組みは行えませんのでとても重要です。
 その際、最も重要な取り組み分野を考えていくとよいでしょう。たとえば、一番電気代のかかる電源は何か、一番多く出しているゴミの種類は何か、などを考え、中心に取り組む活動を決めると行いやすいと思います。

 続いて社内の現状把握をしてください。文房具やトイレットペーパーなどに「エコマーク」といったラベルが印刷されていますので、購入状況を調べましょう。
 そして、環境影響の大きい分野の商品を中心に購入していくと効果的です。たとえば、紙の使用量が多い事業所であれば、紙のグリーン購入を中心に進めるとよいでしょう。

 こうした商品の環境情報を得る際に、「エコ商品ねっと」や通通販業者の商品カタログなどを使っていただければと思います。また、自社だけでなく顧客などにもグリーン購入を促すことも大切です。
 その際は製品・企業の環境情報提供も含めて開示するなど製品・企業への共感を高めることが大切です。そのためには社員のスキルアップも欠かせません。


 私たちはさらに企業のレベルを図るため、「環境通信簿」という取り組みを進めていく予定です。各企業の環境取り組みのものさしとして使っていただきたいと思います。

 環境活動というと製造業だけのものと思われているかもしれませんが、グリーン購入は非製造業でも多くのことができます。ぜひ積極的に取り組んでいただければと思います。

質疑応答

Q:弊社はメーカーで工場等では幅広い取り組みを行っていますが、本社部門の環境の目標の設定(一律の比率設定等)や成果の把握は難しいと考えています。どのように取り組めばよいか何かアドバイスをいただけますでしょうか?
A:すべて一律の比率は現実的ではありませんので、品目によって比率を変えるなど臨機応変に対応していくとよいでしょう。最初の目標水準に達したら、さらに段階的にレベルを上げていくようにすることも必要だと思います。

Q:グリーン購入でコピー用紙など限られたもの以外で行うことは可能でしょうか?
A:できると思います。やっていないと思っても実は社内で購入しているケースがあります。現状分析を行った後に、まずは方針を明確にしてください。一歩ずつ対応することが大切です。大手企業では、総務部などが一括購入などをして全社に配布するとよいのではないかと思います。そこからさらに広げていけるとよいですね。

Q:金属にもマーク(環境ラベル)はあるのですか?
A:金属は有価で回収され、リサイクルされる仕組みができているため、リサイクル材料と位置づけられず、環境ラベルはありません。基本的に紙やプラスチックなど回収しにくいものについて行います。

■パネルディスカッション 「環境情報を企業評価にどう使う」

 後半は、パネルディスカッションを行い、「環境情報の開示やその企業評価のやり方」について議論した。

【パネリスト】
深津 学治グリーン購入ネットワーク事務局長)
柴田 源樹サステインズ開発・運営:株式会社ツナギバ代表取締役)
●岸本 吉浩(東洋経済新報社『CSR企業総覧』編集長)

【モデレーター】
●安藤 光展(CSRコンサルタント/一般社団法人CSRコミュニケーション協会・代表理事)
=敬称略、社名(組織名)・役職は2016年9月29日時点

環境情報は思いも一緒に開示する

 ――企業の環境情報開示や期待する点は?

■柴田:
弊社では網羅性、即時性の観点から企業のWebサイトを調査しています。ここ2、3年の非製造業の環境情報については、「環境・地域貢献」が「CSR活動」へ、「環境の取り組み」が「環境CSR」へなどに表現を変更した企業はありますが、「環境情報の質と量」といった開示レベルでは大きな変化は見られません。

岸本非製造業は開示の意思が弱いように感じます。ただし、非製造業も環境課題の解決を求められる時代になっていることは間違いありません。そのため、まずは方針を明確にして、わかる範囲で環境情報を集めていき、そして第一歩として「グリーン購入」を行い、そこから広げていくのがいいのではないかと思います。

※ここで先進事例として「モスフードサービス」を紹介。主な内容はISO14001が100%や原材料調達に力を入れていることなどを紹介した(詳細は割愛)

深津たとえばグリーン購入を中止する会社もありますが、なぜ中止したのかなどの開示も必要かもしれません。できていることを開示するだけでなく、できていない点や今後の目標を開示することも大切です。
 原材料の調達では、パーム油についての議論がありますが、これも「できること」、「問題意識」の公開が大切ではないかと思います。こうした行動が長い目で見て「企業への信頼」につながると思います。さらに今後、進めたいことを開示すれば、その企業としての思いがより伝わっていきます。


――評価される環境情報はどのようなものか?

■柴田:環境活動について、なぜ行うのか(目的)、何を行うのか(方針・実施内容)、どこに向かっているのか(目標)、どのような効果が生まれたか(結果)、といった視点で評価を行っています。
 また、各社がさらに高いレベルに到達していただきたいという思いがありますので、「PDCAが回されているか」といった点も重視しています。
 期待する開示情報は、「今は実施していないが、今後行っていこう」といった経営姿勢です。ステークホルダーにとって重要な情報であると考えていますので、ぜひ開示いただきたいです。

深津情報を見る方が自社のファンになってもらえるような発信をしてもらいたいと思います。そのためには、「やりたい」ことの情報開示も必要です。企業が何を考えているかのメッセージが求められています。
 環境ラベルのついているものだけを購入範囲として進めていくとマンネリ化します。そこで「何のためにグリーン購入をするのか?」などを見直していくことで、情報開示もよくなり、評価も高まるのではないかと思います。

■柴田:環境情報などの非財務情報は、今後、財務情報と同じ「データ」として扱われることになりそうです。私が注目しているのが「非財務情報のデジタル化(XBRL化)」の動きです。すでにコーポレートガバナンス報告書はXBRL形式で公開されていて、データとして利用できます。
 環境省が進めている環境情報開示基盤整備事業では「XBRL形式での環境報告書」の提出が求められています。また、国際的なCSR・サステナビリティ報告書のガイドラインを策定しているGRIでもレポートフォーマットのXBRL化を進めています。
 今後、投資家を中心に多くの方がデータ化された財務情報と非財務情報を併せて企業を分析・評価する時代になると思います。環境省で配布されている資料などを参考に、非財務情報のデジタル化の動きをウオッチしていただきたいと考えています。

■岸本:現在は調査票で環境情報を集めていますが、将来的には広がりつつある公開情報も使っていきたいと考えています。私どもの調査項目は多くの会社を同じ基準で比較できるように考えて作っています。評価に使いやすい情報という意味では横比較できるものでなければなりません。開示も各社バラバラでなく何らかの基準に準拠したものが望ましいです。

――非製造業にも開示が要求される時代になりつつあります。より非製造業の開示も期待されていますので各社の取り組みに期待しています。

今回のセミナーを終えて

 環境活動は製造業と非製造業で温度差が大きいと言われます。一般的に非製造業は積極的に環境問題には取り組んでいないケースが多いです。しかし、地球環境保全の必要性から考えると、製造業・非製造業関わらず、それぞれができることを進めなければなりません。その第一歩としてグリーン購入は重要な取り組みになりそうです。

※第10回セミナーは2017年3月30日に開催いたします。
  お申し込みは2月下旬の開始を予定しています。

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