CSR TOYOKEIZAI
第8回東洋経済CSRセミナー 企業とNPOの上手な付き合い方

第8回東洋経済CSRセミナーのページへ

2017年1月30日



 2016年5月23日に「第8回東洋経済CSRセミナー 企業とNPOの上手な付き合い方」を開催した。参加者は73名だった。今回はその模様を報告する。

1. 講演1
2. 講演2

■講演1 「NPOを評価する

 企業のCSR活動は外部との連携が大切と言われます。特にさまざまな領域で活動を行っているNPO(非営利組織)は企業のCSR活動と協働できる分野も多く、協力すればより大きな成果が期待できるとの声も少なくありません。しかし、現状は企業とNPOの関係は決して深くはなく、お金を出すだけなど一方的なお付き合いになっているケースも珍しくないようです。

 社会が複雑化し、企業に求められる活動が多様化するなか、自社単独での取り組みはこれまで以上に難しくなってきています。NPOとより密接に付き合っていき、各社のCSR活動のレベルアップにつなげていくことを真剣に考える時期に来ているようです。ただ、一部を除き「NPOをよく知らない」という企業も多く、自社にあったNPOを知り、そして活動をともに進めていくことは決して簡単ではありません。

 そこで、今回の第8回東洋経済CSRセミナーでは、①NPOの現状、②国内のNPO評価の取り組み・利用、③NPO・NGOと企業の連携でCSRのレベルアップ、という3つの視点からお2人の専門家の方にお話いただき、皆様の活動の参考にしていただきたいと考えています。

 まず、前半の講演は、一般財団法人非営利組織評価センター理事長・太田達男氏に「NPOを評価する」というテーマでお話いただきました。

【講演者】
太田 達男(一般財団法人非営利組織評価センター理事長)
=敬称略、役職は2016年5月23日時点

非営利組織は多様な存在

 非営利組織(NPO)の要件は、①利益を配分しない、②法人財産に対する持分権がない、の2つを満たす必要があります。たとえ法人格がなくても、この要件を満たせば非営利組織に該当します。

 設立目的は公共の利益のための「公益」、同窓会といった構成員の利益のために行う「共益」、「私益」などがあります。ただし、これらの境界はあいまいです。他に解散時の残余財産分配でもタイプが分かれます。

 目的による分類もあります。公益かそうでないか。さらに単一目的か多目的な法人などです。たとえば、単一目的で公益事業を目的としている非営利法人としては「社会福祉法人」などが存在します。公益のための多目的の法人は公益社団法人、公益財団法人などが該当します。
 公益以外を目的とする多目的な法人には一般社団法人、一般財団法人があります。

 税制面で見ると、優遇されている「寄附金特別控除法人」、「特定公益増進法人」、「公益法人等」に対して、普通法人課税になる「その他の非営利法人」があります。

 「国・地方公共団体」、「営利企業」に対して、社会における3番目のセクターとして市民セクターが重視されています。ここにはボランティア団体などの任意団体も含まれます。NPO等は非営利法人の公益型非営利法人という位置づけです。公共や営利では対応できないところを市民セクターが担うということで第3セクターの重要度は増してきています。

 非営利セクター全体を指す際にイギリスでは「Civil Society」などと言います。「非営利性」を強調する場合は「Non-Profit Organization(NPO)」、「非政府性」を強調する場合は、「Non-Government Organization(NGO)」です。日本では海外で活動している団体のことをNGOと言うことが多いですが、NPOとNGOは厳密な違いはない場合もありますので注意が必要です。

 続いて非営利組織の種類と数を見ていきましょう。現在、公益社団・財団法人は9,459団体存在します。一般社団・財団法人は42,022(国税庁法人番号公表サイトより。講演時点)、特定非営利活動法人は50,870で社会福祉法人は20,067あります。他に更生保護法人や実体のわかりにくい任意団体も数多くあります。

玉石混淆の非営利組織を「見える化」していく

 非営利組織は問題が多いのも事実で企業の皆様が付き合いにくいと思う要因のひとつになっています。詐欺・横領等の刑事事件、役職員による不祥事事件、組織規律の乱れ、などの問題も少なくないと指摘されています。

 問題が表に出るのは氷山の一角で、ひっそりと解散に追い込まれるケースも多いです。たとえば特定非営利活動法人の解散はこの18年間で11,932件あります。1年間で500件以上の計算になります。取り消しも2,765件あります。税制上最も優遇されている公益性の高い公益法人ですら行政から問題があると判断されたときに求められる「報告要請」が109件ありました。「認定取り消し」も3件あります。

 どこに問題があるかわからないし、わかったときにはもう遅いという場合もあります。こうした状況の中で非営利組織の情報提供がより求められる時代になりつつあります。そこで我々は非営利組織の評価機関を作ろうと考えました。
 欧米では米国を中心に複数の特色ある評価機関が存在します。一方で日本ではこれまで全国ベースの評価機関は存在していませんでした。

 公益財団法人「日本財団」の支援を受け 2014年9月に「非営利組織の評価・認証制度に関する準備委員会」を立ち上げ、評価手法・評価機関の在り方を検討し、その後2016年4月に「一般財団法人非営利組織評価センター(JCNE:Japan Center for NPO Evaluation)」を設立しました。

 我々の目的は「適正な組織情報を評価・公開し、幅広い関係者が支援決定の判断等ができるようになること」です。「NPOの力量・質の向上、社会からの信頼性向上」を進め、最終的にNPOによる「社会的課題の解決」を目指しています。ぜひ、参考情報として使っていただければと思います。

 現在の日本では非営利組織の信頼度は低いです。この点を高めていきたいと考えています。
 具体的な評価基準は5つの側面から行います。①事業活動、②ガバナンス、③コンプライアンス、④情報公開、⑤業務管理です。評価手続きは、①自己評価、②JCNEへ申請、③JCNEが評価、④結果通知、⑤公開という5段階を考えています。

 作成した評価データをお使いいただきたいと考えている組織は、①一般市民、②助成財団、③政府・地方公共団体、④研究者、⑤企業、⑥NPOです。ぜひ、本日、ご出席されている各社でCSR活動を実践されている皆さんに参考情報としてご活用いただければと思います。

■講演2 「NPO・NGOとの連携で差別化するCSR」

 後半の講演は、国内外の連携事例、連携パートナーの見つけ方・付き合い方、評価の方法についてCSRアジアの赤羽真紀子さんにお話いただきました。

【講演者】
赤羽 真紀子(CSRアジア日本代表)
=敬称略、役職は2016年5月23日時点

NGO・市民団体の存在感が高まっている

 (写真を見ながら)世界中でさまざまな問題が発生していますが、これまでは政府や国際機関が解決すべきという考えが中心でした。それが、最近、企業も積極的に対応していくべきという考え方が急激に広がってきています。

 私どもCSRアジアの調査では、アジアで最大の課題と認識されているのが「気候変動」です。日本は比較的緯度が高く、気候変動はあまり問題として考えられていませんでしたが、アジア全体では赤道に近い国も多く大きな課題となっています。

 2位は「サプライチェーンと人権」です。3位は「水問題」、4位は「反汚職を含むコーポレート・ガバナンス」です。他に貧困問題などもあります。

 「今後10年間でアジアのCSRに影響を与えるのはどういう組織か?」という質問では、2010年から「NGO・市民団体」が1位になっています。アジアでは政治主導でCSRが始まったため、以前は政治家の影響が大きかったのですが、最近、少しずつ変わってきています。また、以前はあまりレベルが高くなかった地元のNGOもかなり成長してきました。

 他に今回初登場したのが「パートナーシップとマルチ・ステークホルダー・イニシアチブ」です。国連がSDGs(持続可能な開発目標)を採択し、2030年までに17個の目標と169のターゲットの解決を目標としていますが、こちらも他セクターとのパートナーシップ向上が必要とされています。
 パートナーシップを広げるとチャネルが大きく増えるというメリットがあります。課題解決にパートナーシップが大切という考え方は一般的になってきました。

 イギリスの酒造メーカーである「ディアジオ」は「PlanW」という活動でNGOや大学とパートナーシップを組み、ホテルなどで女性が就職できるような活動を進めています。スリランカで、大学などとパートナーシップを組んで職業訓練に積極的に取り組み、成果をあげています。

 パーム油大手のウィルマー・インターナショナル社はマレーシアのボルネオ島に持っているプランテーションでインドネシアからの移民労働者の子ども向けの教育支援をパートナーと共同で行っています。場所はマレーシアですがインドネシアの教育内容も入れています。

 他に米シスコ社が行っているネットワーキング・アカデミーも注目事例です。米国の企業は世界で同様の内容を行うのが得意です。その際にグローバルレベルでさまざまな団体とパートナーシップを組んでいます。この活動を進めても、教育を受けた人が必ずしもシスコに入社するわけではありません。しかし、同社は広い意味でITセクターで働けるよう教育を進めることが長期的な産業育成にもつながると考え積極的に行っています。

 少し古いですが、パートナーシップの先進事例として2005年にユニリーバが行った調査が知られています。それまでユニリーバのような大企業が進出した国では「小規模の小売業が駆逐されている」と言われていました。そこで同社はNGOのオックスファムと共同で調査を行い、「地元に経済効果がもたらされている」という調査結果を発表しました。このようにNGOと連携して、真実を明らかにしていくということも必要です。

 パートナーシップの日本企業の事例としては、味の素(ガーナ栄養改善プロジェクト)、リコー(インド教育支援プロジェクト)、武田薬品工業(保健医療アクセスプログラム)などが先進的として知られています。 

 日本ではNGOやNPOは企業に対して批判する立場にいるのではないか、専門知識がプロレベルに達していないのではないかといった偏見が根強くあります。そのため、一緒に課題を解決しようという意識は不足していました。

 NGO側にも企業と連携することに躊躇する空気もありました。特定の企業と付き合うことで「企業に取り込まれていくのではないか」という心配があったようです。グローバルの成功事例などを見ていくとそうした考えは変えていく必要があると思います。 

パートナーシップが連携成功のカギになる

 一方でNGOと敵対関係になり、批判されるケースも少なくありません。しかし、NGOに攻撃されたらまず対話を行うことが大切です。
 P&Gはグリーンピースから批判された際に積極的に対話を行い、解決策を一緒に検討しました。この結果、問題をより早く解決することにつながりました。

 連携は戦略的に行う必要があります。最も重要なのはビジネスとの整合性です。事業とあまり関係ないことはうまくいきません。さらに大切なのは、企業とNGOが対等の関係で行うということです。企業はお金を出すとどうしても「自分たちの方がえらい」と思いがちですが、その点は気をつけてください。
 
 さらにお互いのメリットを共有することも大切です。どのような活動で連携するかも重要です。事前寄付なのか、商業的活動なのか、コミュニティ投資なのか、きちんと考えることが大切です。
 ちなみにコミュニティ投資は社会貢献的な活動を意味します。海外では「社会貢献」という言葉は使いません。直訳である「Social Contribution」は「施し」という意味が強くなります。コミュニティ投資という言葉は地域への積極的な投資という意味が強いです。

 こうした活動を戦略的に行うためには、誰のためなのか、ニーズは何なのかを考えることが大切です。その際に、何を成し遂げたいのかを考えることも重要です。
 企業にとっての優先度を横軸にコミュニティ・ニーズを縦軸にして、優先度が高く、必要性が高いものができるのが理想です。
 
 日本企業が海外などで行うときに出口戦略も重要になります。連携先の得意分野を組み合わせることが大切で、さらにいつまで続けることができるかを明確にしておかないと支援先の信頼が得られません。
  国内・海外で活動を行いたい場合、日本国内にある中間支援団体を活用するといいかもしれません。アメリカでは、多くの組織があります。その際もどのような組織と付き合いたいかを明確にしておくとよいでしょう。

 過去の事例では、よくしようと思ったのに、逆にマイナスの結果になってしまったことも少なくありません。たとえば、ある企業が魚捕りの網を寄付したのですが、地元の魚より網目が大きかったため、使えなかったという例がありました。地域のニーズをきちんと検討して、本当に欲しいと思うものを提供することが大切です。
 そして、最終的にインパクト測定手法を活用し、評価を行うことも考えていくべきでしょう。

質疑応答

Q:社内でCSR予算を獲得するためのポイントは?
A(赤羽):どのようなメリットが地域と会社にあるか、また実施前後でどのようなストーリー変化があったかを示すことが大切だと思います。

Q:評価基準はどのように作っていきますか?公開はいつくらいに開始するのでしょうか?
A(太田):NPOの評価は組織の評価と事業の評価に分かれますが組織評価が中心になります。最初は45の基準を設けて、40弱くらいにしたいと思っています。当初は試行錯誤的なものになりそうです。評価結果は完成次第順次公開していきたいと思います。100点満点や格付けなどいろいろな出し方がありますが、今後の課題です。

Q:個人的なつながりでNGOとの関係で始めることはいいことなのでしょうか?
A(赤羽):結果が重要ですので、必ずしもきっかけとしては悪いことではありませんが、会社と組織の付き合いなので、その後組織としての付き合いをすることが必要です。会社はあまり意識していませんが、NGOも会社を評価していますので、その点も忘れずに長いお付き合いをしていただきたいです。

Q:企業は箱物支援が多いがソフト面での支援を進めるにはどうすればよいでしょうか? 
A(赤羽):これまでは企業は箱物などの支援が多かったですが、最近、少しずつ変わってきました。以前は貧困地域で学校を建てたが、ソフト面で問題があり使われなかったといった失敗事例もあり、最近は教育支援などソフト面を行うようなことが増えています。徐々に箱物主義ではなくなりつつあるので見守っていただきたいと思います。
A(太田):
企業から見るとNPOはどうしてもぜい弱だと思います。思い入れは強いが、組織としての運営がきちんとされていないケースがあり失敗するケースもあります。報告を受けるなどのコミュニケーションを取ることが大切です。

今回のセミナーを終えて

 企業が社会課題を解決しようとする際に、専門家であるNPOやNGOと連携することは不可欠とよく言われます。ただし、どこと一緒に組めばいいのかよくわからないという企業も多いようです。そうした際にNPOの評価データがあれば、活用できるようになると思います。今後、事業活動での課題解決が求められるようになり、こうしたNPOとの連携はさらに求められるようになるのではないでしょうか。

※第9回セミナーは2016年9月29日に開催しました。
 詳細は下記画像をクリックしてください。
CSR seminar 9

Copyright(C) Toyo Keizai, Inc., all rights reserved.