CSR TOYOKEIZAI
第1回東洋経済CSRセミナー テーマ:企業の社会貢献について考えよう

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2014年5月12日






 2014年4月16日に「第1回東洋経済CSRセミナー~企業の社会貢献について考えよう~」を開催した。参加者は87名だった。今回はその模様を報告する。



1.講演
2.パネルディスカッション

■講演 「企業の社会貢献は社会的責任なのか」

 企業の社会貢献活動は大きな曲がり角を迎えている。国内外問わず企業の社会貢献活動が期待されているのは事実だが、利益が出ず、効果も見えにくく、コストだけがかかるものとして縮小する動きも出てきた。

 各社のCSR担当者は、社会貢献のあり方について悩んでいる方も少なくない。
そこで、今後のCSR活動の参考となるよう、CSRアジア日本代表の赤羽真紀子氏に「企業の社会貢献は社会的責任なのか」というテーマでご講演いただいた。

【講演者】
赤羽 真紀子(CSRアジア日本代表)
=敬称略、役職は2014年4月16日時点

コミュニティ投資で社会貢献のインパクトを明らかに

 「社会責任のガイドライン」であるISO26000でも説明されているように持続可能な社会をつくることがCSRの目的である。

 企業の社会貢献は、CSR活動の一部であるが、お金を提供するだけの単なる寄付行為は、社会貢献活動とはいえない。そんな中で社会貢献のあり方として、アジアの先進企業では「コミュニティ投資」という考え方が浸透してきている。

 コミュニティ投資は戦略的な社会貢献活動のことで、社会課題を抱えるコミュニティに、企業が解決のために投資(インプット)を行い、企業や地域にとってどれだけのインパクト(効果)がもたらされたかを明らかにするという考え方である。

 日本企業は、一般的に活動のコストや参加した人数、提供した物資などインプットは示されているが、どれだけ会社や受益者にインパクトが与えられているかという視点が不足している。

 よい活動をしていれば説明責任を果たさなくていいわけではない。むしろ、予算が厳しいCSR部門だからこそ、地域や企業にとってどれだけのリターンがあるかを測定し効果を明らかにする「コミュニティ投資」の視点が欠かせない。

国際的な社会課題に向き合う必要性が高まっている

 企業が社会の持続的な発展に貢献するためには、国際的な社会課題は何かを考え、それを目標にすることが求められる。たとえば、2015年までに解決すべき国際的な社会課題として、2000年に国連ミレニアム・サミットで採択された「ミレニアム開発目標」には8つのゴールが掲げられている。

 CSRアジアが09年に「ミレニアム開発目標」という言葉が日本企業のCSRレポートに出ているかどうかを調査したところ、5%ほどの企業でしか言及されていなかった。

 このままでは世界的な社会課題の解決に対して日本企業の取り組みは少ないと判断されてしまう。近々、15年以降の新しい開発目標が設定されることになっている。新しい目標が明らかになったら、それらを新たな課題として取り組むことも念頭に置いておくとよいだろう。

サプライチェーンが課題として重視されている

 CSRアジアでは「アジアの有識者が考える社会的課題とその課題を解決する主体はどこか」を08年からでアンケート調査で定点観測している。

 13年の結果では、意識されている社会的課題に変化が見られた。08年から1位を続けていた「気候変動とエネルギー問題」に代わり、「サプライチェーンと人権問題」が1番の課題として認識されるようになった。
 08年にはランク外だった「コミュニティ投資と共有価値の創造(CSV)」も、2位までランクアップし、関心が高まっている。

 社会問題の解決を担う主体としては、「政府・行政」に代わり、「NGO市民団体」がトップになった。従業員が社会問題の解決を担う主体だという回答も年々増加し、6位に浮上した。
 ソーシャルメディアの発達とともに、CSRに影響を与える存在として従業員の役割はますます大きくなっているようだ。

CSR活動の優先順位をつけることが大切

 続いて、日本やアジアでCSR活動を立ち上げた私の実務経験をふまえ、私自身が直面した悩みとその解決策をもとに、具体的な取り組み方のヒントを紹介したい。

 CSR担当者の悩みでよくあるもののひとつが、「どうやって活動の優先順位をつけるか」だ。優先順位をつけるために参考になるのが、ステークホルダー・エンゲージメントとマテリアリティ分析の2つだ。

 ステークホルダーのニーズを聞くにはいろいろなコミュニケーションスタイルがある。簡単にわかるものとしては、コールセンターに届いた消費者からの意見や社員食堂の意見箱への投稿、経営層からのメールに回答した社員の声などが参考になるだろう。

 グローバル企業などで海外の進出先で活動する際には、ステークホルダーがどういう活動をよいと考え、実際に求めているかを認識することは重要だ。

 また、活動に優先順位をつける際の手段として、地域の重要性を縦軸、企業の重要性を横軸にまとめるマテリアリティ分析がある。ステークホルダーの意見を根拠として活動の集約方針を伝えれば、その理解を得られやすいのでお勧めだ。

どんな社員も社会と関わりたいと思っている

 さらに「CSR活動へ社員の巻き込む際の秘訣」もご紹介する。CSRは、経営トップの理解を得てトップダウンで行うことが重要だ。ただし経営トップの理解を得ることが難しい場合には、ボトムアップ型のアプローチも考えられる。

 どんな社員でも他者などを助けようとする「向社会性」と「共感」を持ち、社会と関わりたいと思っている。ただし、多くの社員の参加を促すには担当者が努力し社内コミュニケーションを積極的に行う必要がある。
 たとえば、スター的な社員とコミュニケーションを取り、積極的に巻き込んでいき広がりを作っていくことも有効だ。

 「社会ニーズを理解」し、「自社らしい活動を行う」ためにステークホルダーが何を求めているのかを知る必要がある。ニーズを理解し企業活動に反映するためにステークホルダー・エンゲージメントが重要になる。
 地域がどんな活動を求めているかがわからなければ、各ステークホルダーに聞くのが一番だ。そのために中間支援組織を活用するのもよいだろう。

 「特定の外部団体となぜ組むのか」を社内などで説明する際にも中間支援組織の手助けは有効だ。
 CSR活動を共同で行うパートナーとなるNPO選びでは、その規模の大きさや利益額より、課題解決能力があるかを知ることが重要だ。

 中間支援組織には、NPO、NGOなどの外部協力団体を選考したエシカルリストをまとめているところもあるので、活用できる。

■パネルディスカッション 「社会貢献をCSRとしてどう、位置づけるか」

 セミナーの後半は、パネルディスカッションを行った。東洋経済の調査では、東日本大震災をきっかけに社会貢献部署やボランティア休暇の実施などは増えている。ただ、一方で「社会貢献はムダ」という批判も根強くある。

 では、企業が社会貢献を行うメリットは何なのか。また、どこに問題があり批判されるのか。さらに、どのように進めれば価値ある取り組みが行えるのか議論した。

【パネリスト】
●赤羽 真紀子(CSRアジア日本代表)
●安藤 光展(CSRコンサルタント、CSRのその先へ運営者)
●狩野 明香理(グリー株式会社広報室 CSR担当)

【モデレーター】
●岸本 吉浩(東洋経済新報社『CSR企業総覧』編集長)
=敬称略、役職は2014年4月16日時点

うまく行うためにもっとも大切なのはコミュニケーション

 ――企業が行う社会貢献に問題はあるのか?また、実際に社会貢献を行う場合にうまく行う秘訣は?

■安藤:

 問題点は3つある。

①かけた金額や人の効果測定ができにくいこと。
②トップの理解がないこと。
③社内への浸透ができていないこと。

 この3つが企業が社会貢献を行う際の問題点として社内の人からよく出てくる。特に3番目は従業員の目線に立って行っていないことが主な原因だ。こういうことができていない活動は問題があると思うようだ。

■狩野:
 
否定的な意見が増えているかどうかはわからないが一定数いることは間違いない。エンジニアから「なぜ清掃活動をしなければいけないのか。これはムダではないか」と批判を受けたことがある。こういう事業と関係ないと問題と感じるのかもしれない。

 企業が社会貢献を続けることには以下の3つの理由がある。
①事業の健全な継続に有効。
②(いいことをやっていることで)愛社精神の育成に寄与する。
③多くの企業がこれだけ社会貢献をやっている中で行わないことがリスクになる。

 CSR活動に対して批判的な人にも耳を傾け、アウトプットに結び付けていくことが大切だ。メッセージを伝え続けることで考えが変わってくることもある。

■赤羽:
 うまく行うためにはコミュニケーションが重要だ。否定的な人も存在し、簡単には動かせないかもしれないが、1人でも2人でもいいから一緒にやってみることが重要だ。続けているうちに、少しずつ動いてくれるようになる。ボトムアップも重要だ。カルチャーを変えていくことが大切だ。

わかりやすいテーマ設定が大切

 ――どのようにテーマを選び、進めていくとよいのか?

■狩野:
① 経営理念・CSR理念に合う
② 本業の近い
の2つの視点からテーマを選んでいる。

 たとえば、弊社では自社の強みを活用したプログラミング教室など行っている。他に社内交流が活性化に必要だという経営課題のソリューションとして富士山の清掃活動を行い、社内のコミュニケーションの活発化など大きな成果をあげた。
 社内外に説明できるストーリーがあるかどうかが重要ポイントとなる。

■安藤:
 基本的にメリットがある活動かどうかという視点が大切。東日本大震災では被災地のボランティアを社員教育として行っている企業があった。社会貢献とコミュニケーション向上の両方につながり、支出したお金以上のメリットもあったようだ。

 メリットは金銭的なものだけではない。従業員とのコミュニケーションにつながるのであれば社員の研修や社内交流としても有効だ。
 基本的には社会に対していい効果が発揮できるかを考え、企業理念などからいくつか視点を持ち、その中から始めていくことが大切だ。

 成果を測るためにSROI(Social Return on Investment)という方法がある。社会貢献活動を行った際の効果を数値化し評価するものだ。たとえば、ある人物の就業支援をした場合に、その人が就職したことで得られた給与や社会保険の負担額を、就業支援活動を行った効果として金額に換算する。
 こうした考え方も参考にして進めるとよいのではないか。

■赤羽:
 ゴミ拾いや盆踊りへの協賛などは導入部分としてはよいが、基本的に社会貢献ではないと思う。ただ、会社のコミュニケーション向上のために使うのであれば、こうした取り組みも必ずしも悪くはない。しかし、誰でもできる貢献を長期間続けてもあまり評価はできない。やはり、その企業特有のスキルを利用した貢献が大切だ。

 企業の中では優秀な社員が多くのスキルを持っている。社会にはこうしてスキルが足りていないところも多い。優秀な社員を活用していく社会貢献をもっと考えるべきだ。

 また、社会貢献で長い歴史を持つ日本企業は一般的にCSRミッションが長すぎる。海外向けに説明する際にもそのまま翻訳しているため、内容が理解されないこともある。領域も広すぎるので、何でもやっているといった感じになっている

  これに対し、アメリカ企業のミッションは3単語くらいで簡潔でわかりやすい。
 日本企業はわかりやすいミッションの選定と、手がける領域を整理することが必要だ。ただし、日本はアジアなどの世界と比べると社会が抱える課題は比較的少ない。課題を見つけること自体が、他のアジアの国に比べ難しいという現状もある。

取り組みは可視化! 成果は長い目で評価

 ――企業内の展開・外部連携について行っていることは?

■狩野:
 社内外問わず「活動を可視化」し、幅広く認知してもらっている。これが大切だ。
 また、やはりトップダウンは効果があるので「経営陣の積極的な参加」も呼び掛けている。さらに、「垣根を越えた個人的かつ横断的な関係構築」も重視している。

 今後は、こうした活動を人事制度考課に組み入れていくことも検討したい。インセンティブを高めていくことも課題だ。社内の共感者を増やすことは非常に大切。個人的にさまざまな部署の人とランチに行きコミュニケーションを図っている。

■安藤:
 
外部の連携先としてNPOは重要だが評価も大切だ。与信調査については、設立年月日など表面的な情報ではなく代表者や事務局長など「その人自身を評価する」という姿勢が重要だ。

 社会貢献は基本的に生み出された結果で評価すべき。成果のない社会貢献をやるだけでは意味がない。社会貢献で起きた結果について議論が進むようにならないといけないのではないか。

■赤羽:
 外部との連携についてNPO、NGOと組み、補完し合いながら活動するのが理想的だ。だが、どのような取り組みも短期で結果を出すのは難しい。長期的な視野で関係構築しながら進めていくことが必要だ。

まとめ

 企業の社会貢献は本業にあっていない時や社内のコミュニケーションができていない時などに批判を受けやすいようだ。

 基本的に何らかの成果が得られるものでないと行うべきではないことは全員が一致した。しかし、成果は必ずしもお金だけが基準ではない。たとえば、大企業などで従業員間のつながりが十分でない場合に、社会貢献を行い社員のコミュニケーション向上が成果として考えられることもある。

 現在の社会には多くの社会課題が存在する。日本は比較的、行政が充実しているためアジアの途上国に比べると課題は少ないが、それでも公的部門で対応できない場合は企業が補完することも必要だろう。

 また、企業には多くのノウハウを持つ人が多く、こうした人の力が社会に出て行くことで社会全体の発展につながる可能性は高そうだ。

※次回のセミナーは7月9日を予定しています。

■参考資料

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